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Happy?! Birthday


第3話 9月20日 午後4時半
駅へ続く道を、俺は少し早足めに歩いていた。
よーく考えたら、俺はムチャクチャ厭な男になってた。エゴイスティックに千尋に怒鳴りつけたりして…
そうや、俺は千尋の"他人を思い遣るココロ"に魅かれて付き合うことにしたんや。人を殺してしまった女性のココロを感じ、やさしく介抱した千尋の"ココロ"に(「Colours」参照)。
それに比べたら、俺は醜過ぎた。只の独占欲で弥勒君を蔑んだり…
弥勒君に偉そうな口叩いてた自分が、だ。ホント恥ずかしくなる。
千尋に早く会いたい。会って、直接俺のココロを感じてもらいたい…
そして、もう少しで駅に着くという時だった。
「誰か、そのヒト捕まえてください!!」
それ程人通りの多くない道の後ろから、女性の大きな声が聴こえた。俺は振り向いた。その瞬間、俺の顔に何か紙袋のようなモノが当たった。
「痛っ…」俺はその場に疼(うず)くまった。後ろから、女性と男性が駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか?」女性の方が俺に言う。どうやらさっきの声の主らしい。男性の方は俺を通り過ぎていく。
「一体、何がどないしたって…?」俺は男性が走っていった方を向いた。男性はどうやら、女子高生っぽいヒトを追いかけているらしい。
「あ、実は…」

「え?ガングロの女の子が万引きを?」
俺は、その女性――"FAIRY STYLE"という洋服店に勤める土橋さんというヒトらしい――と共に、さっきの男性――彼女の同僚で、佐古田さんというらしい――を追いかけていた。
「ええ…店は此処から1km程のところなんですけど、さっきあのガングロの高校生っぽい女の子が、商品を持っていた紙袋にこっそり入れようとしているのを佐古田さんが見つけて…」土橋さんは少し息を切らしながら言う。「で、佐古田さんが注意したらいきなりその商品を持ったまま逃走したから、佐古田さんと私が追いかけてるんです…佐古田さんは昔陸上をやってたそうですし…」
「なるほどなぁ…ま、俺も顔に紙袋ぶつけられたこったし、捕まえるん手伝いますよ」
「あ、ありがとうございます…あれ?」土橋さんは前を見て言った。「あの女の子と佐古田さん、駅に入ってっちゃう…」
「駅に?…俺たちも急ぎましょう」
「え?ちょ、ちょっと…」土橋さんに合わせて少しゆっくりめに走っていた俺は、思わず土橋さんを追い越して駅に向かって走っていた。
後から考えれば、どうして俺はこんなにこの万引き事件に必死になってたんだろう。千尋に早く会いたかった筈なのに。紙袋をぶつけられたから?自分でもよくワカラナイ。

急いで適当に切符を2枚買い(不足分は着いた駅で精算するつもりで)、改札を通り過ぎホームへの階段を駆け登っていると、十数段先にさっきの男性――佐古田さんが居た。
「佐古田さん、さっきの子は…」土橋さんが尋ねる。
「いや、改札でちょっと手間取ってしまって…彼女はスッと通ってたのに」佐古田さんもかなり息を切らしている。「とにかく、急ぎましょう…って、君は…?」
佐古田さんは俺を見て言った。
「あ、後で詳しく説明しますんで…とにかく先を急ぎましょう」俺たちは階段を駆け登った。

ホームに着くと、両サイドに電車があった。
「ちっ…どっちに乗ったかも分からないな…」と佐古田さん。
「いや、多分こっちですよ」俺はさっさと右側の電車を指さす。
「え?どうして…?」土橋さんと佐古田さんは不審げな顔をする。
「だって、向こう側の電車は発車までまだ3分もあるじゃないですか。早く俺たちから逃げたいんやったら、もうすぐ発車するこっちに乗ってるでしょ?」
「なるほど…」と佐古田さん。「で、君は一体…?」
「あ、俺、矢吹 烈馬っていいます。秀文高校の1年生で…」
「秀文高校っていったら、こないだ事件のあったトコ?」土橋さんが言う。
「ええ、まぁ…」
「道理で咄嗟(とっさ)の判断が利くんですね、あそこ事件はよく起こるけどすぐ解決するし」
…そういう問題か?と俺は思ったけど言わないでおいた。
「さ、とにかくさっきの女の子捜しましょう」

電車は6両編成だったので、3人で手分けしてガングロの女の子を探すことにした。
佐古田さんが1両目と2両目、土橋さんが5両目と6両目、俺が3両目と4両目。閉まりかかった列車の3両目に急いで飛び乗った俺は、なんと乗ってすぐのところに紙袋を持ったガングロの女の子が立っているのを見つけた。
とりあえず4両目も見てみたが、4両目には該当する女の子は見当たらない。俺は彼女に声を掛けた。
「すみません、あなた、もしかして…」
「何?」彼女は噛んでいたガムを膨らませながら不機嫌そうに言う。薄めだが黒い化粧でより強面(こわおもて)に見える。
「あ、あの…」と俺が言いかけた瞬間、車輌の両側のドアが開いた。そして、電車の進行方向から見て前の方から佐古田さんが、後ろから土橋さんが、それぞれ紙袋を持ったガングロの女性を連れて現れた。
「…え?」俺は、目を丸くしてしまった。
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