Happy?!Birthday 第4話

Happy?! Birthday

第4話 9月20日午後5時

｢なるほど…つまり、その万引きをした少女を追いかけて大楽寺(たいらくじ)駅からこの列車に乗ったら、それに該当する人が3人居た、ということですね｣
大楽寺駅の次の駅である井ノ口(いのくち)駅で、勝呂刑事が言う。
｢ああ…俺達が追っ掛けてたのはガングロの女の子で、"河内屋(こうちや)デパート"の紙袋持ってる子やったんや｣と烈馬。｢そしたら運悪く似たカッコでメークもよく似た子が3人もおってん。乗客が殆どおらんかったさかい、誰がかは全然わからへんねん｣
｢そうですか…それじゃあとりあえず、あなた方のお名前と職業、あと何両目に乗っていたかをお願いできますか｣勝呂は3人のガングロの女性に言う。
｢あたしは小椋亜樹。高校生｣3人の中で一番背が低く化粧の黒さが一番薄い女性がガムを噛みながら言う。｢3両目に乗ってたら、突然そのコが話し掛けてきたのよ｣
｢新谷美和子、高校生｣逆に一番背が高く烈馬よりも高い様に思われる女性が素っ気無く言う。｢乗ってたのは一番後ろ、6両目よ。そしたらあの女のヒトが急に何か言ってきたの｣
｢わ、私は藤崎繭です…高校生です｣1人怯え気味の様子の女性が涙目で言う。｢私は2両目に乗ってました…で、あの男性がいきなり"万引き犯だな"って言ってきて…｣
｢そうですか…それじゃあその紙袋の中身を一人ずつ見せて戴けますか?｣
3人は渋々承諾した。

｢小椋さんの紙袋の中身は、紺のノンスリーブに紺のミニスカート、紺のバッグにシルバーのネックレス…あとこれは…｣勝呂は最後の一着を少し梃子摺(てこず)った様子で取り出した。｢紺のジャケットですね｣
｢随分紺が好きなんやなぁ…｣と烈馬。
｢占いでラッキーカラーだって言ってたのよ｣と依然ガムを噛みながら言う小椋。｢丁度セールもやってたしね｣
｢それじゃあこれを買いに河内屋デパートに行ってたんですね｣
｢そうよ。で、買い終わって家に帰ろうとしてあの列車に乗ってたってワケ｣
｢ちなみにレシートは持ってますか?｣と勝呂。
｢レシート?そんなのどっかに棄てちゃったわよ｣

｢新谷さんの紙袋には白のハンドバッグに黒のパンツ、革のベルトに未開封の箱が1つ…｣勝呂が取り出しながら言う。｢この箱は?｣
｢ああ…ピアス買ったのよ｣新谷は不貞腐れた顔で言う。｢別に開けてもらってもいいけど｣
｢新谷さんもこれを買いにデパートに?｣烈馬が尋ねる。
｢ええ、他に2、3軒寄ったけど別にいいの無かったし…柏原の方にある知ってる店に行こうとしてあの列車に乗ったのよ｣
｢あなたはレシートは持って…｣と勝呂。
｢さっきのコもそうだけど、レシートを大事にしてるガングロなんてそうそう居ないわよ…｣と新谷。｢っていうかそんなコ居ても気色(きしょ)いでしょ｣
｢ま、そりゃそうや…｣

｢藤崎さんの紙袋の中身は赤のフリース、紫のパーカー、グレーのシャツにブルージーンズ…あれ?｣と勝呂。｢あなたのは他の人のと違ってどれも値札ついてないみたいですが…｣
｢あ、それ、梧桐駅の近くの古着屋に売るつもりだったんです…｣と藤崎。｢大楽寺にある家から駅へ歩いてきて梧桐に行くつもりで…｣
｢じゃあこの紙袋は前に買い物した時にもらったとか?｣と烈馬。
｢はい…2ヶ月くらい前だったと思います…｣

｢土橋さん、佐古田さん、万引きされた品物はこの中にありますか?｣烈馬が尋ねる。
｢いえ…｣と佐古田。｢盗まれたのは薄緑のパーカーだったんですが、この中には…｣
｢そうですね｣と土橋。｢値札がついてるのはどれも河内屋デパートの値札ですし、古着の方も当店では取り扱ってないモノですし…｣
｢それじゃあ話は早いんじゃないの?｣と新谷。｢私達の中に犯人は居ないってことでしょ?｣
｢い、いえ、まだそうだと決まったわけじゃないですし…｣勝呂が焦ったような表情で言う。その時、勝呂の携帯が鳴り出す。｢あ、ちょっとすみません…｣
勝呂は暫く皆のもとを離れた。そして携帯で話をしたかと思うと、すぐ戻ってきた。
｢何やったんですか?｣烈馬が尋ねる。
｢あ、盗まれたそのパーカーが見つかったんですよ｣と勝呂。｢"FAIRY STYLE"の値札がついたままで、線路のすぐ脇に落ちているのが見つかったそうです｣
｢線路のすぐ脇っちゅうことは、列車の窓から棄てたっちゅうことやな…｣烈馬が言う。｢っちゅうことはや、やっぱり万引き犯はあの列車に乗ってた人やっちゅうこっちゃな｣
｢そんな…｣と藤崎。
｢あ、それと、そのパーカーのすぐ近くにコットンが落ちてたそうです｣
｢コットン?｣
｢ええ、割と湿っていて、茶色いファンデーションがついていたそうです｣
｢茶色い…｣烈馬は3人の方を向いた。そして、烈馬の中で或る一つの考えが浮かんだ。｢…なるほど、そういうことか｣
｢え?｣と勝呂。
｢わかったんや、万引き犯が誰なんか｣

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