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Meaning of Edge


第2話 〜疑惑〜

十数分後、数台のパトカーが秀文高校の前に停まった。
TVドラマで見るように、白いチョークのようなもので死体のあった跡をなぞったり、鑑識員がいろいろ写真を撮ったりしている。
そして、刑事らしき人物が結城たちに尋問を始めた。
「高砂 楊輔の死体を発見した時の状況を詳しく教えてください」
「あぁ、結城君がいなくなったから、俺達探してたんや。そしたら俺、この社会科室の中で結城君が血まみれになって倒れてるのを見つけて、それで柚木先生に鍵を持ってきてもらってドアを開けたら、結城君と一緒に高砂サンの死体を見つけたんや」と矢吹。
「血まみれになって倒れていた…?」
「血まみれだったのはシャツだけみたいっスよ。望ちゃん…じゃない結城君は誰かに殴られたって言ってるっス。そうっスよね、望ちゃん」今度は麻倉が言う。
「う、うん…」
「それは本当だろうね」刑事は結城に詰め寄る。それを制したのは羊谷だった。
「あのさぁオヤジ、そーゆー取り調べはあんまりよくないんじゃないって本部長の伏見サンが言ってなかったさ?」
「と、時哉?お前、なんでここに…」
「俺も第一発見者の中の一人さ」少し呆れ顔で言う。
「羊谷君、この刑事さんと知り合いっスか?」麻倉が聞く。
「知り合いも何も、この刑事は俺のオヤジさ」
「えーっ?!」一同はみんな驚いている。
「…なんでそんなに驚くさ」
「だ、だってぇ、羊谷君のお父さんが刑事だなんて聞いてなかったし…」と結城。
「別にそんなこと言いふらすよーなことでもないさ」
「それより時哉、お前も第一発見者なんだったら、こいつらの証言に誤りはないってわかるよな」
「あぁ、矢吹も麻倉も嘘なんかついてないさ」
「となると…、一番疑わしいのは結城君、君だな」
「へ…?」結城の表情には驚きだけでなく、何が何だか分かっていない感じも含まれていた。
「何でさ?何で結城が怪しいって言えるさ?」羊谷は父親に半ば怒りをもって訊く。
「この部屋のドア、窓には全て内側から鍵がかかっていた。唯一上のほうの小さな窓がひとつだけ少し開いていたが、どう見ても子供ですら通れない大きさだった。つまり、この部屋は密室だったってわけだ。そうなると、その密室の中で死体と一緒にいた結城望を疑うのは当然だろう?」
「…そんな簡単に断定はできねぇよ」
「え?」刑事は声のした方を見た。そこにいたのは篁だった。 「……」刑事は反論できない。
「つまり、これは結城に罪を着せる為に誰かが仕組んだことなんだよ。嘘の手紙で結城を呼び出して気絶させ、血まみれのシャツを着せ、密室の中に閉じ込めておけば、簡単に結城を犯人に仕立て上げる事ができるってわけだ」
刑事はすっかり黙ってしまった。
「さぁ、わかったんなら結城を犯人扱いするのはやめようぜ。必要最小限の事情聴取が終わったら、さっさと帰してくれよ」

警察による取調べが終わり、5人は帰路に着いた。
「それにしても、すっごくカッコよかったよ篁クン!」と結城。
「そうそう、ただの推理小説マニアかと思ってたけど、本物の探偵みたいだったさ」羊谷も絶賛する。
「オレは別に、思ったことを言っただけだよ」
「それにしても、誰があんなややこしいトリックで結城君を陥れようとしたんやろな…。結城君、誰か心当たりとかあるか?」矢吹が尋ねる。
「うーん…別にないよぉ」
「…やろな。君は恨まれるような人間とちゃうからな」
「そうっスよ、望ちゃんに限って恨まれる事なんてないっス!」

「あ、それじゃオレこっちだから」大きな交差点に差し掛かった頃、篁が言った。
「それじゃあまた明日」
「おやすみっス〜」
「…アリガト」
結城は小さく呟いた。

麻倉と矢吹とも別れ、結城と羊谷の2人が夜道を歩いていた。
「……」結城は何も言わずうつむいていた。その顔を覗き込んで、羊谷は背負っていたギターを取り出した。

―涙なんか 必要ないよ
 暗い顔じゃ どんどん落ち込んでくだけだから
 勇気出して 歩いていけば
 望んでいる全てが 実現へと向かうはず…―

「…羊谷クン?」
「あ、やっぱヘンさ?即興で作った歌なんだけど」羊谷はミュージシャン志望で、いつもギターを持ち歩いているのだった。
「ううん、すごくイイ歌だったよ。ありがとね」結城は微笑むと、「ここだから」と三叉路を曲がって行った。
「……」羊谷はギターを背負い直すと、家路へついた。

翌日は金曜日で通常授業があるはずだったが、高砂の死亡と言う事件があったことで、1時限目の時間を用いて集会を行い、その後の授業は緊急停止となり、生徒は帰ることになった。が、篁たち5人は、事件のことが気になって学校に残っていた。
「でもさぁ、ボク達学校に残って何するの?」結城が問う。
「とりあえず、あの時の状況を再現してみようぜ」
「再現っスか?」
「ああ。結城の昨日の行動とかを辿っていけば何か糸口に辿りつけるかもしれねぇだろ?」
「なるほど、流石さ」

5人は最初に生徒会室へ行ってみた。部屋の中には誰もいない。
「まずここでオレ以外の4人が仕事をしていて、その後結城がどっか行っちまったんだな」
「そうだよ。風見先生からの呼び出しの紙をもらってたから」
「呼び出しの紙?」
「うん。丁度今持ってる」結城はポケットから小さな紙を取り出した。矢吹はそれを受け取ると読み上げた。
「えっと、"高1b組 結城 望 本日午後4時半、社会科室へ来る事 風見 繁"か…。ワープロで打ったみたいやな」
「この紙、本人から受け取ったのか?」
「ううん、朝、下駄箱の中に入ってたんだ」
「つまり、誰かが望ちゃんを誘(おび)き出す為に風見先生の名を騙ってこの紙をワープロで打って、下駄箱の中に入れておいたってわけっスか?」
「多分そうだろーな…。あの日風見は学校にきてなかったわけだし。んで?結城が出て行ってからオレがここに来るまでってどれ位の時間だった?」
「大体…7、8分くらいじゃなかったさ?」
「うん、多分それ位だったっス」
「結城、お前ここを出てからどうした?」
「えっとぉ、ここからちょっと速歩きで2階の社会科室へそのまま行ったよ。部屋の中に入ったらすぐ後ろから誰かに殴られて…」まだ痛むのか、包帯を巻いた頭をさすりながら言う。
「その時、あの部屋に高砂センパイの死体はあったさ?」
「うーん…記憶にはないよぉ…。なんせすぐ殴られちゃったから」
「背後ってことは、当然犯人の顔も見てへんっちゅうことやな」
「うん、そう…。あ、ゴメン、ちょっと教室に行ってきていいかな」
「え?なんでっスか、望ちゃん」
「昨日あんなことがあったから、教室に忘れ物しちゃって…」
「お前の行動は大体わかったから別にいいぜ。オレたちもこれから向こうの教室のある教棟へ行くから、そっちへ来いよ」
「気を付けてくださいっスよ、望ちゃん」
「わかってるよ。それじゃ」結城は生徒会室を出て行った。
「それじゃ、オレ達も動こうか」4人も生徒会室を出て行く。

4人は教室のある教棟へ来た。
「マクラはこっち側の教棟を探してたんだったさ?」
「そうっス。矢吹君と篁君は向こうの教棟で探してたっス」
「その時麻倉、お前に何かあったか?」
「何かっスか?」
「ああ、例えば何かを見つけたとか、誰かに会ったとか…」
「あっ、そう言えば、熊谷センパイを見たっス。あれは確か…2年c組の教室の前だったと思うっス」
「熊谷サンを?なんでまた2年の教室の前なんかにおったんや?」
「さぁ…、知らないっス」
「そういえば…」ふと篁が呟く。
「ん?何さ?」
「オレは特別教棟の1階を探してたんだけど、美術室を覗いた時に2年の保原 郁人と大日向 純がいたぜ」
「保原サンと大日向サンが?あの人たちって美術部だったさ?」
「美術部は去年なくなったんやなかったっけ?」
「あ、そうだったさ…。でも、ならなおさら2人はそこにおったんや?」
「……」篁は考え込んだ。

用事を済ませた結城は生徒会室へ一旦戻った。篁たちと合流する前にしなければならないことがあったからだ。
そして…
「うわあぁぁぁっっっ!!!」

特別教棟の方へ移動しているところだった篁たち4人は、結城の悲鳴を聞きつけるとすぐに生徒会室へやってきた。
篁たちが生徒会室へ来ると、結城は開いたドアの前で怯えたような表情でへたり込んでいた。
「お、おいどうしたさ?」
「な、中で、白戸センパイが…」
「何?!」篁と羊谷は生徒会室の中を見た。
そこには、頚(くび)元にロープを絡めて倒れている白戸 徹の姿があった。
「白戸センパイ!!」腰を抜かしている結城と、彼の体を支える麻倉以外の3人はすぐさま部屋の中へ入った。
「どないしたんや、白戸センパイ?!」矢吹が白戸の体を揺らす。
「ダメだ…、もう死んでるぜ」白戸の手首に自分の指を当てている篁が言った。
「そ、そんな…」部屋の外から結城が言う。

「ったく…、2日連続生徒が死ぬなんて、どうかしてるんじゃないのか、お前の学校」通報を受けて駆けつけた刑事、羊谷 惣史が息子に言う。
「そんなこと言われても、俺の所為(せい)じゃないさ」やや呆れ顔で羊谷が言う。
「それより刑事さん、死体の状況は?」篁が訊く。
「あぁ、白戸 徹の死亡推定時刻は午前10時前後、つまり君らが死体を見つける数分前くらいに殺されたってわけだな…。死因は首に絡まっていたロープで絞殺された事によると思われる窒息だよ」惣史は昨日の一件で篁に一目おいているらしく、あっさり教えてくれた。
「そう言えば、高砂センパイの事件とこの事件って、やっぱり同一犯なんっスか?」
「さぁな…でもその可能性はなくもないけどな…。そう言えば、高砂 楊輔の事件はあれから何か進展は?」
「えっと…」警察手帳のページを少しめくり、「死亡推定時刻は午後4時半前後、結城君の倒れていた横に落ちていたナイフで刺されて死んだようだ。傷あととナイフは照合できている。あと、結城君が着せられていたシャツについていた血液も高砂のものと一致した」
「なるほどな…」

取調べを受けた後、5人は学校から帰っていた。
「ちょっと、お腹空いたねー…」結城が言う。
「もう午後1時か…この中で、こっから一番近いところに家があるの誰や?」
「俺は多分一番遠いさ」
「ボクもそんなに近くないよぉ」
「俺は一人暮らしやから親おらんで。篁君は?」
「オレも親いねぇよ」
「それじゃ多分僕が一番近いんじゃないっスか?」と麻倉。
「それじゃマクラ、お前ん家行ってもいいさ?」
「多分いいと思うっス」
5人は麻倉の家に向かう事になった。
「麻倉君ってこの街にずっと住んどるん?」
「そうっスよ」
「結城君もそうやろ?」
「そうだよ。トモとは小中と別々だったけどね。篁君とかもそうじゃないの?」
「オレは2年位前に引っ越してきたんだよ」
「あ、そうだったさ?実は俺も、オヤジの仕事の関係で2年半ほど前に静岡から越してきたさ」
「俺は高校になってから引っ越してきたんや。とにかく上京したいって思っとったんや」
「じゃあ矢吹クンってどこから来たの?」
「大阪の心斎橋の近くや」
「えっ、大阪だったっスか?!」
「おい、なんでわからなかったさマクラ…」呆れてツッコむ羊谷だった。

麻倉の家は住宅街の中にある小さな2階建てだった。
「ただいまー…」
「あ、おかえり知之。結構早かったのね…あら、お友達?」家の中から出てきたのは、茶髪でポニーテールにしている女性だった。
「ほら、昨日話した篁君たちっスよ」
「あ、あの篁クンね。こんにちは。あたしは、知之の母、汐里よ。よろしくね」
「どうも…」
「それより母さん、僕達まだお昼ごはん食べてないっス…」
「えっ?そうなの?それじゃ今からごはん作るわね。篁クンたちも食べる?」
「あ、はい…」どうも断りきれそうになかったので、篁は食べていくことにした。結城たちも同意した。

「おいしー…」
「ホンマや、麻倉君のお母さんは料理が上手なんやなぁ」
「うらやましいさ、マクラ」
「あら、3人ともお世辞が上手なのね」笑いながら汐里が言う。
「ところで麻倉…」突然、篁が言った。
「え?何っスか?」
「お前、父親いないんだな…」
「え…?」麻倉は少し表情が曇った。汐里も、箸を進める手が止まる。
「ちょ、ちょっと篁クン…」結城が制しようとする。
「いくらなんでも失礼さ」
「いいのよ、ホントのことだから…」汐里が言った。「それより、なんでそんなことがわかったの?まさか知之はそんなこと喋らないだろうし」
「靴だよ。ドアを開けたとき、玄関には汐里サンの靴がいくつかと、大きさからして麻倉のものに間違いないものが2、3足しかなかった。つまり、ここには麻倉と汐里サンしか住んでいないってことだよ」
「……」結城や矢吹は彼の推理に驚き唖然としていた。
「離婚したのよ、10年前に。知之(この子)がまだ小学校にも入っていなかった頃だったわ。ちょっとした意見のすれ違いがいくつもあってね…。ちょうど、そう、篁クンによく似ていたわ。頭がキレるところも、顔もそっくり」
「は、はぁ…」篁は返す言葉が見つからなかった。

麻倉の家を出た5人は、帰り道にこんなことを話していた。
「そういえば、高砂センパイを殺した犯人と白戸センパイを殺した犯人がもし同じだとしたら、動機は何さ?」
「生徒会への恨みか、それとも個人的な何かか…」
「個人的な恨みっスか?」
「ああ、例えば過去にあの2人が何かよからぬ事をしていたとか…」
「それじゃ俺、何か調べたろか?」
「あ、じゃあ俺も調べるさ。オヤジに何か署内にある資料でも見せてもらうさ」矢吹に賛同するように羊谷も言う。
「それじゃ2人に頼もうか…。オレと結城と麻倉はもう一度学校に行ってみる」
「学校に?」
「オレ達、たった1箇所大切な場所をまだ調べてねーだろ?」
「…あっ、社会科室?!」
「そういえばまだ現場って調べてなかったっスね」
「そーゆーコト。それじゃ、矢吹、羊谷、頼んだぜ」
「OK!」矢吹と羊谷は3人の元から立ち去る。
「ボク達も早く行こうよ!」結城に引っ張られる形で、残りのメンバーは学校へ向かった。

白戸の事件を調べていた刑事の羊谷を連れて、篁たちは高砂の死体のあった社会科室へ向かった。
「まだちょっと血腥いね…」結城は思わず鼻を押さえる。
「夕べここにあの死体があったから、しょうがないっスよ」
「ところで刑事さん、本当にこの部屋は密室だったんだろーな」
「それはほぼ間違いない。廊下に通じる2つのドアや小窓は勿論、外に向いている窓も1つを除いてしっかり内側から鍵がかかっていたんだ」
「なぁ、その開いていた窓って言うのは…」
「あの左から3番目の上の小さな窓だよ」
羊谷は篁たちをその窓へ連れていく。死体発見時から全く動かしていないというその窓は、確かに数センチだけ開いていた。
「でもこんな隙間じゃ誰も通れないっスよ?」
その時、結城が何かを見つけた。
「ねぇ篁クン、これって何だと思う?」
「ん?」結城が指差していたのは、開いていた窓の丁度下にある大きな窓の内側からかける鍵だった。その取っ手になにやら糸のようなものでつけられたような傷があった。
「…そうか」
「え?」
「わかったぜ、密室トリックの謎が」

その頃、矢吹と羊谷は県警へきていた。県警本部長、すなわち羊谷の父の上司である伏見が2人を出迎えた。
「伏見サン、ちょっと資料見せてほしいんだけどさ」
「資料?」
「昨日と今日、秀文高校で起きた殺人事件の2人の被害者に関する何かなんやけど」
「うーん…、とりあえず資料室へ行ったほうが良さそうだね」伏見は2人を資料室へ連れて行った。
資料室にはいくつもの棚があり、その棚の一つ一つにはまたいくつもの資料が並べられている。
「うわぁ…こん中から探すのは結構骨さ」
「何かあったらまた呼び出して。ちょっと用があるから」そう言うと伏見は出て行った。

20分後、山程の資料の中から関係ありそうなものを手当たり次第引っ張り出しては隅から隅まで探していた矢吹が、何かを見つけた。
「羊谷君、これ…」
「ん?何さ?」羊谷は矢吹の差し出した資料を覗き込む。
「2年前の秋、当時秀文高校1年生だった衣笠 比呂という生徒がイジメを苦に自殺したんや。警察は衣笠をイジめていた生徒数名に事情聴取をしたんやけど…」
「あっ、高砂サンと白戸サンの名前があるさ!」
「他にも鹿取サンや熊谷サンの名前まであるで」
「それで、他に何かないか?」
「ちょっと待てよ…ん?当時14歳だった衣笠の弟、拓斗はその後行方不明になった、やと?」
「当時14って事は中2か中3…今は高1か高2ってとこさ」
「これ、篁君たちにも伝えたほうがええかな」
「多分、伝えるべきさ」
2人は伏見に礼を言うと、学校へ向かって行った。


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