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Keys Quest

第11話
「えっ、あ、ええっ…?き、君は…」
トモユキは自分に抱きつく者の姿を見た。
それは、先程彼らに話し掛けてきた、ネコの耳やしっぽのようなものをつけた行商人の少年であった。
「わぁー、会いたかったなのおー☆」
「え、何?この子、知り合い?」
その様子を怪訝そうに見詰めるミホ。
「んー、まぁ、知り合いっちゃあ知り合いっつーか…」
と、その時、少年の後ろから3人の男女がやってくる。
「あ、お探しの方たち見つかりましたか」
その中の若い青年が行商人の少年に話し掛ける。
「うんっ☆」
少年はトモユキに抱きついたまま、満面の笑みで彼らのほうを向く。
「あー、よかったわねー見つかって」
「これで私たちが探す手間は省けたってわけですね」
他の2人、背の高い女性と眼鏡をかけた男性が言う。
「それじゃあ、僕達はこれで」
最初の青年が、少年やトモユキたちに軽く会釈をした。
「うんっ、ありがとーなのぉー☆」
去って行く3人の姿を、一同は(作り)笑いで見送った。
「…で?」
ぽつりと言葉を発するレツマ。次の瞬間、自分より40cmほど背の低い少年のネコ耳を引っ張り上げる。
「これはどーゆーことか説明してもらおうやないか?ええ?」
「てててっ、いーたーいーっ、痛いなのおっっ!!」
涙目でじたばたする少年。
(あ、これ飾りじゃなくてほんとに耳なんだ…)
少年の抱擁から解放されたトモユキは、その様子を横目で見ていた。
「まあまあ、相手は子供なんだし離してあげなって…」
仲裁に入ろうとするミホ。
「いや、そいつはオレらとタメらしいぞ」
「うそっ?!」
タカムラの言葉にミホは目を丸くする。
そうこうしているうちに、少年はレツマの手から離れる。
「だってだってえ、おにーさん達がおかいものしてくれるってゆったのにどっか行っちゃうんだもーん。だからオレ、じけーだんのヒトたちに探してもらおーと思ったんだあ。迷子になったんですーってゆったら、すっげえしんぱいしてくれたんだよお」
「…意外にずる賢いんさね」
苦笑いを浮かべるトキヤ。
「はあ、しゃあないな、ほな買うたるから、商品見せてみ」

「…っと、ほなこんだけ薬草と薬と常備食もらおか」
結局行商人の少年とやり取りを行うレツマ。
「ありがとー☆んっとねえ、じゃあ…これくらいでー」
値段を提示する少年。
「っておい、これ高ないか?!ぼったくりとちゃうやろな?」
「えー、ぼったくりちゃうよおー。だいたいこんなもんだよお」
何時の間にかレツマの喋り方が少年にも伝染しているらしい。
「…ったく、しゃーないなあ…ほれ」
荷物の中からお金を出すレツマ。
「わあっ、ありがとーなのお☆」
満面の笑みを見せる少年。
「これで満足したか?ほなそろそろ俺ら行くで」
「うん…ふぁ、ちょっと待って」
「ん?まだなんかあんのか?」
嫌そうな表情のレツマ。
「んっとねえー…」
少年は自分の荷物をまさぐると、1枚の鏡を取り出した。
「ん?何っスか、その鏡?」
トモユキも鏡を覗き込む。だが、その鏡は真っ黒で、彼の姿は映っていない。
「あのねえ、これ、オレのおともだちのぎょーしょーにんからもらったんだけどお、”けんりのかがみ”ってゆうんだってえ」
「”権利の鏡”…?」
「うん。でもねえ、なんかなんにもうつんないし、持っててもかさばるだけだから、せっかくだからおにーさんたちにタダであげちゃうなのお」
「折角ておい…」
「んじゃ、オレはこれでかえるねえ。ばいばーいっ☆」
少年はレツマの手に無理矢理鏡を握らせると、走ってレツマたちから去っていった。
「お、おいっ、こらっ…」
レツマは鏡を持ったまま呆然と立ち尽くしていた。
「ありゃどう見ても、厄介モンを押し付けてった感じさね」
トキヤはあきれ顔で呟いた。

パーティーは一晩、町の宿屋に泊まることにしました。
そしてレツマとタカムラは、町に買出しに出ていました。

「ちっくしょ、あのネコガキめっ!やっぱぼったくっとったやないかっ!!」
道具屋の前で声を荒げるレツマ。
「やっぱりふつーにこういう店で買うたほうが安くあがっとるし。かわいい顔してやりやがったなあいつ」
「ま、そういう悪知恵が働くから行商人とか務まってんだろうけどな」
冷静にツッコむタカムラ。
「それよりレツマ、お前、気付いてたか?」
「…”さっき”の、か?」
レツマは、タカムラの目を見ずに言う。
「確かにあの”違和感”は見逃せへんかったけど…ということは、や」
「ああ…”あいつ”は少なくともオレ達を騙してるってことになるよな」
「…とりあえず動きには警戒しとくか」
二人は人ごみの中を歩いていった。

「遺跡、っスか?」
一方残りのメンバーは宿屋で、宿の女主人・ヒロノに話を聞いていた。
「うん、そうよ。ここからチトセ山だったらほとんど直線的に行く最短ルートもあるにはあるけど、あのへんは手ごわいモンスターがたくさん出てくるって有名だから…」
ヒロノは地図を指差しながら言う。
「ちょっと遠回りにはなるけど、こっちのルートを通ったほうが安全だと思うよ。ほらここ、古い遺跡があるんだけど、ここを経由するように行ったほうがいいんじゃないかしら」
「へー、流石は一人で宿を切り盛りしてるだけはあるさ」
「まあね、あなた達みたいな旅人はよく泊まるし。でも、あの山は危ないって聞くけど、本当に大丈夫なの?」
トモユキは、少し間を置いてから口を開いた。
「…たとえ危なくても、僕は行かなきゃいけないんっス。大切な人を、助け出すために」
「…そっか」
ヒロノは、小さくかつ優しく微笑んだ。


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