inserted by FC2 system

Keys Quest

第12話
翌日、パーティーは町を後にし、魔王が住むというチトセ山へ向かっていました。
吟遊詩人のトキヤは相手を幻惑させるなどしてサポートに廻り、
盗賊のミホはその体術で物理攻撃をするなど、一行の攻撃方法もだいぶバラエティに富んだものになってきました。
もちろんその中でも、タカムラはほとんど前線に出ず、トモユキのレベルアップをそれとなく手伝っていました。
そして、前日宿の女主人が教えてくれた通り、やがて古びた建造物らしきものが見えてきました。

「あー、あれが遺跡っちゅうやつやな」
手をかざして遠くを見るレツマ。
「わー、思ったよりおっきいんっスねー…」
「…あれ?おい、あそこ…」
遺跡の全貌が見えてきたころ、トキヤはふとその入り口らしきあたりを指差した。
「ちょっ、誰か倒れてるじゃないっスか?!」
一行は、その姿があるところまで駆け寄った。
倒れていた青年は、真っ白で少し長い髪を後ろに束ね、綺麗な目鼻立ちをしていた。
「まだ、息はあるみてーだな…」
タカムラがそう呟いた時、青年の目がうっすらと開いた。そして、小さな声。
「…な…」
「ん?何や?」
「…何か、食べるもの、持ってない…?」
次の瞬間、青年の腹からものすごい音が響いてきたのだった。

「さっきあのネコ男から食べ物買うといてよかったな…」
レツマがそう零してしまうほど、青年は良い食べっぷりを見せていた。
「あ、ごめんね、こんな食べちゃって…もう何日も何も食べてなかったもんだから…」
「そんなのはいいけど、それよりあんた、なんでこんなところでぶっ倒れてたんだい?」
ミホが怪訝そうに尋ねる。
「あー、うん、そうだね…」
青年は手を止め、うつむいた。
「実は、ボクの弟がこの遺跡の中に居るんだ」

「お、弟さんがこの遺跡の中にっスか…?!」
「うん…あ、ボクはノゾムっていうんだけど」
青年はおもむろに語りだした。
「ボクと弟は学者兼探検家みたいなことやってて、この遺跡に2人で調査に来たんだけど、途中の仕掛けに弟がハマってはぐれてしまったんだ。ボクは何とか此処まで脱出できたけど、弟はたぶんまだこの中に居ると思う」
「ふーん…せやけど、ノゾム君やったっけ?君、そんな調査に来た割には荷物少なすぎるんちゃうん?」
訝しげに尋ねるレツマ。
「あ、ほとんどの荷物は弟が持ってたんだよ。食料とかもその中に入ってたから、ボクは空腹で倒れちゃってたってわけ。だから弟は何とか食いつなげてはいると思うんだけど、なるべく早く助けに行きたいんだ…」
その場に、少しの静寂が流れた。その静寂を破るのは、トモユキのか細い声。
「…あの、レツマ様…」
「…ああ、多分君は同じこと考えとると思うわ」
「お、おい、まさか…」
嫌そうな表情を見せるタカムラ。
「ああ、弟くん探すの、俺らも手伝ったるわ」
「えっ…いいの?」
きょとんとした表情のノゾム。
「ああ、此処で逢うたも何かの縁やし、そこまで言われて何もせんと通り過ぎるんは幾らなんでも心苦しいし。トモユキ君には悪いけど、構んかな」
「…はい」
「あーあー、お人よしなことだね」
少し不満そうに言うミホ。それをトキヤが笑ってなだめる。
「まあまあ、いいじゃないのさ。さ、そうと決まればさっさと行っちまおうぜ」

「それにしても…妖精って便利だねー」
薄暗い遺跡の中を、パーティーとノゾムが歩いていく。
「そうっスねー…僕も遺跡に入るまで気付かなかったっスよ、妖精さんがちょっと光ってるなんて」
そう、先頭を行くノゾムとトモユキのそのまた前には、ミナトとカイトの妖精の姉弟が微かな光を発しながら飛んでいるのである。
「えへへ、トモユキさんのお役に立てて嬉しいですww」
「はは…それはどうも…」
トモユキの前を行くミナトは、とてもご機嫌な声を上げる。
「そう言えば、弟くんがハマった罠ってどんなのだったのさ?」
トキヤがノゾムに尋ねる。
「あー、えっとね、たぶんもうそろそろだと思うんですけど…壁のでっぱりみたいなものを押したら床が抜けて落ちてっちゃったんだ」

と、その時、ふとトモユキが手をかけた壁から、ガコンという音がした。

「…えっ」
トモユキが状況を把握するより先に、彼の足許に虚空が生まれた。
そして、トモユキと、たまたま後ろに居たタカムラは、一気に重力を感じることとなる。
「う、うわあああぁぁぁぁっっっ?!!」
「お、おいっ!?」
レツマは床に大きく開いた穴に呼びかけるが、間もなくその穴は閉じられてしまうのであった。

「い、いたた…」
穴から転がり落ちたトモユキは、ゆっくりと体を起こす。
「えっと…タカムラ様は大丈夫っスか…?」
「ああ…何とかな…つーかお前、言ってる端から罠に落ちてんじゃねえよ…」
「す、すみませんっス…」
とその時、トモユキの手の中から何かが聞こえる。
「…えっ、な、何っスか?!」
「お前…もうそろそろ離してやれよ」
「え…」
トモユキはゆっくりと手を開く。すると、真っ暗な場に淡い光が生まれる。
「あっ…ミナトちゃんっ?!」
「い、痛かったですぅ…」
トモユキの手の中で、ミナトはぐったりとして目を廻している。
「あ、ご、ごめんなさいっス…;;」
「あれか、落ちる瞬間に本能的に掴んだってことか」
「えっ、それってまさか、トモユキさんに必要とされてるってこと…?」
「いや、溺れる者は何とかとも言うけどな」

と、その時。

「あの、大丈夫ですか…?」
「え?」
声がした方を向く3人。そこには、たいまつを持った青年が居た。そしてその顔は、彼らにとって
見覚えのあるものだった。
「の、ノゾム君…?!」


最初に戻る前を読む続きを読む

inserted by FC2 system