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Keys Quest

第14話
「ん゛ー…」
難しい顔で石板と睨めっこをしているトモユキ。
「…あのー…全然分かんないんっスけど…僕、こんな魔法見たことないし…」
「…ま、そうだろうな」
しらっと言うタカムラ。
「え?もしかしてタカムラ様、分かってるんっスか?」
「ああ、そして残念ながら、これはお前の専門な”魔法”とはあんまり関係なかったりするんだ」
「…はい?」
「ど、どういう、ことですか…?」
ユウキも不思議そうに尋ねる。
「トモユキ、魔法を使うときに描く模様のことを、何と言う?」
「え?”魔法陣”のことっスか…?」
「ああ。で、実はこの世には、そいつとは似て非なる”まほうじん”が存在するんだよ」
タカムラの言葉に、トモユキは頭から疑問符を生やしまくっている。
そんなトモユキをよそに、ミナトがひらめいたように言う。
「あっ、もしかして、”魔方陣”のことじゃないですか?!」
「ま、魔”方”陣…?」
「はい、正方形のマスの中に、1からそのマスの個数までの全部の数を1個ずつ入れて、縦・横・斜めのどの列の合計も同じになるようにしたもののことだって、私どこかで聞いたことあります」
「これはこれは、分かりやすい説明ありがとよ」
タカムラは地面に図を書きながら言う。
「んで、3×3の場合、本質的には魔方陣は1通りしか存在しない(下図1参照)。が、これを回転させたり裏返したりさせれば、全部で8通りの魔方陣が完成するっつーわけだ」
「あ、ホントだ、どの列の和も15になってますね」
ユウキが口を挟む。
「ああ…そして、その8通りの中で、この石板と同じ位置に1と2が置かれるものは…この1通りだけだ(下図2参照)」
「そ、それじゃあ…」
「ああ、この魔方陣の数字と同じ順序に石板を押せばいいってことだよ」
図1

図2
※ちなみにこの図2は中国の「洛書」で用いられる「九数図」というものだったりします。

「んー…なかなか出来ないねー…」
石板をあれこれ組み替え続けていたノゾムが、しんどそうに零す。
「見た目は随分簡単そうに見えっけど、意外に難しいんさね」
「それにしたって、こんだけやっとったら解けそうな気ぃするけどなぁ…」
トキヤとレツマも盤面を覗き込む。
「でも、この真下あたりにトモユキ君らがいてるんは間違いないんやろ?」
「ああ…確かにミナトがすぐ下に居るのは感じてるぜ」
カイトが言う。
「でもさぁ、それホントに解けるの?実は答えがありませんでした、とかじゃないだろうね」
不審げに言うミホ。
「…え?も、もしかして…」
レツマは、ふっとつぶやく。そして、ノゾムに向かって声を大にする。
「なあ!あの石板に書いてあった言葉、もう1回言うてくれへん?!」
「え?えーっと…」
ノゾムはレツマの勢いに圧倒されながら言う。
「”正しい順序に石板を並び替えよ 出来なければ 奈落に落ちろ”って書いてあるけど…」
「そうか、そうやったんや…」
「え?何?何か分かったのか?」
きょとんとするミホ。
「ああ…このパズル、最初から”答えがある”なんて言うてへんかったんや」
「は?」
「あー、なるほどさ」
納得したような表情でうなずくトキヤ。
「ど、どういうこと?」
「つまり、元々この問題に答えなんかなかったっつーことさ。大事なのは、その石板の言葉の後半」
「後半って…”出来なければ 奈落に落ちろ”ってところのコト?」
「そうさ。もとより答えが存在しないなら、この”出来なければ”に該当することになる。つーことは、俺らは”奈落に落ち”なきゃいけないってことさ」
「そ、それじゃまさか…」
「ああ…みんな近いとこに固まっといてや」
レツマはそう言うと、古代文字の書いてあった石板に手をかける。
「恐らくは、この石板あたりを押してみたら…」
石板をぐっと押すレツマ。
次の瞬間、彼らの足許に漆黒が現れた。
「うっ、うわあああぁぁぁっっ?!」

※レツマのほうのパズルの解説
この手のパズルは、4×4のものが「15パズル」という名前で特に知られています。
そしてこの解けない問題についても、パズル好きの人にはかなりの知名度があるようです。
ルールを思いっきり簡略化すれば、空白になっているところとどれか1つの数字を入れ替える、ということになるので、
どれか2つの数字を入れ替える、ということは不可能になります。
したがって、正しい配列のうち2つを入れ替えたものを元通り戻すことはどうやっても出来ません。
…なんて面倒臭い説明、文中でやるのは無理でした(笑)。

「よいしょっと…これで8つ目っスね。あとはあの一番上の真ん中の石板を…」
魔方陣の石板に挑んでいるトモユキ達は、ふと何か声を聞いた。
「え、な、何今の…?」
上を見上げるトモユキ。と。
「わあああぁぁぁっっ?!」

「…降ってきた、な」
目の前の人の山を、冷静に見つめるタカムラ。ユウキとミナトも辛うじてよけた。
「いたた…ああ、タカムラ君らやんか」
尻餅をついた状態で言うレツマ。
「あらら、随分あっさり出会えたもんさね」
トキヤも同じ体勢で言う。
「あっ…ノゾム兄さん?!」
「ユウキ!よかったー、無事だったんだねー」
そっくりな兄弟が感動の対面を果たす中。
「…あ、あのー…そろそろ僕から降りてもらってもいいっスか…?」
ぺしゃんこになりかけのトモユキがか細い声で言った。

「んじゃあ、あとはこの石板を押せばええっちゅうこっちゃな」
「ああ。ま、先に何があるかは知らねえけどな」
一気に9人になったパーティー。
「まあ、簡単に上には戻れそうもないから、やってみるしかないんじゃないか?」
ミホが半ば投げやりなふうに言う。
「そうさねー、ま、じゃあ行きますかー」
トキヤはそう言うと、最後の石板を押した。
すると、石板のあった目の前の壁が大きな音を立てて左右に開きだすのであった。
「…ま、行くしかないんやろな」
一行は、ゆっくりと壁の向こうへ歩き出した。


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