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Keys Quest

第15話
「うわ、暗ぇー…」
全員が壁の向こうの暗闇に入った途端、彼らの背後から大きな音がした。
「…えっ?」
「ちょ、ちょっと、閉まっちゃったよ?!」
困惑する一同。
「あれ、でも確かユウキ君がたいまつ持ってた筈じゃ…」
「そ、それが、此処に入った途端火が消えちゃいまして…」
「ていうか、妖精が光ってたんじゃなかったのかい?」
「なんか、急に力が抜けちゃったんですー…」
真っ暗闇の中で、彼らはまた大きな音を聞く。
「な…何や、今の…?動物の、吠える声みたいな…」
「おいおい、勘弁してく…」
そう言い掛けたトキヤの体が、急に遠くに吹き飛ばされる。
「えっ、ちょ、ちょっと大丈夫っスか?!」
「あ、ああ…多分、めっさでかくて強いモンスターか何かが居るみたいさ…」
「も、モンスターって…うわっ?!」
背中に強い痛みを受けるノゾム。
「お、おい…これじゃあ太刀打ちでけへんぞ…」
「モンスターがどれくらいの大きさでどのへんに居て、とか、全然分からないっス…」
「気みたいなのも感じられねえし…これは強敵みてえだな」
「くそっ…せめて、何か少しでも光があれば…」
「光…?」
レツマは、ふと何かを思い出したような顔を見せる。
「そうか…そういう手があったか」

「トモユキ君、鏡や!」
「か、鏡っ?!」
レツマの叫び声に、トモユキは動揺する。
「ほら、あのネコぼうずに貰たやつや!トモユキ君が持っとったやろ?」
「え、で、でも…あの鏡って何も映らなかった筈じゃ…?」
「ええから、早う出してくれ!」
「あ、は、はいっス…!」
あまりのレツマの強い口調に、トモユキは圧倒されながらも荷物を手探りする。
そして、ようやく鏡を取り出した途端、暗闇が一気に光を取り戻す。
「えっ?!な、何…っ?!」
「っしゃ、思った通りや!!」
レツマはそう叫ぶと、光にその姿をさらされたモンスターに向かって剣を一気に振るう。

「はー…何とかなったさねー…」
モンスターの大きな死骸とまばゆい光に包まれた空間。
「はい!レツマさんの剣技見事でしたw」
ミナトが言う。
「それにしても…なんでこの鏡、こんなに光を放つようになったんっスか?貰った時は何も映らない真っ黒な鏡だったのに…」
「トモユキ君、その鏡の名前、何て言うんか覚えとるか?」
「え?えっと…”権利の鏡”でしたっけ…?」
「ああ…恐らくその名前は、誤って伝えられてたんだよ」
タカムラがぽつりと呟く。
「ど、どういう意味?」
きょとんとするノゾム。
「或る国の言葉では、”権利”のことを”ライツ(rights)”と言うんだよ。で、似たような発音の”ライツ(lights)”には”光”という意味がある。だから、元々”光の鏡(mirror of lights)”という名前だったものが、どこかで伝え間違って”権利の鏡(mirror of rights)”という呼ばれ方をし始めたってわけだ」
「あー、んじゃたぶんその鏡、ふだんは何も映さねーけど、全くの暗闇だと逆に光を発するように出来てるっつーことさね」
「あのネコぼうずもまた便利なもんをくれたもんやなー…ん?」
レツマはふと、モンスターの向こうに何かが置かれているのを見つけた。
「これは…小さな宝箱…?」
そして、レツマは箱をゆっくりと開けた。

「これは…指輪?」
宝箱の中には、黒い光を放つクリスタルがついた、小さな指輪が2つ入っていた。
「うわー、綺麗な色っスねー」
覗き込む一同。
「あ、私つけたいですーw」
「いや、ミナトには幾らなんでもでかすぎるさ…それに、一応これはノゾムとユウキの手柄でもあるんだから、あいつらにやるのがスジってもんだろ?」
「えっ、ぼ、ぼく達のですか…っ?」
驚くユウキ。その横で、ノゾムが考え顔で言う。
「んー、まぁ確かに、研究資料として1個もらっときたいけどー…みんなのおかげでここまで来れたんだし、もう1個はみんなにあげるよ」
「え?いいんっスか?」
「うん。みんなに感謝してるもん」
人懐っこい笑顔で言うノゾム。
「さよかー、おおきになw、男の俺らがもろてもしゃあないから、ここは…」
レツマは指輪を手に取ると、或る人物の前まで歩いた。
「唯一の(指輪がはめれるサイズの)女の子である、ミホちゃんにつけといてもらおかな」
「えっ、わ、わたし…?」
レツマは、戸惑うミホの右手を取り、中指に指輪をはめた。
「ふーん、男勝りな割に似合うもんだな」
「男勝りな、は余計だよ!…にしても、本当にわたしなんかが貰っちゃっていいのかい…?」
「ああ。その代わり、大事に身につけといてや。俺らが此処に来て、ノゾム君らに会うたしるしなんやから」
「そ、そう言えば…」
もう1個の指輪を手にしたユウキが言う。
「結局ぼく達、ここからどうやって脱出すれば…?」
「ああ、それやったら…ほれ」
レツマは宝箱の向こう側を指差す。そこには、上に向かって伸びる階段があった。
「これで、地上に戻れるんとちゃうかな」

「はー、ひっさびさに外の空気が吸えるさー」
黄昏に染まる遺跡の外観。伸びをしながらトキヤが言う。
「んー、それにしても、ホントにみんなありがとうねー」
笑顔で言うノゾム。
「皆さんが居なかったら、ぼく達本当にどうなってたことか…」
とユウキ。
「いえいえ、そんな大袈裟なー…」
「でも、みんなこれからもっと大変な旅を続けるんでしょ?足踏みさせちゃってごめんね」
「いやいや、それはかまんて。それより君らのほうこそ大丈夫なん?時間とか」
「え?今って、いつ…?」
きょとんとするノゾムの横で、ユウキが時計のようなものを見ながら言う。
「…あっ、もう研究室を出てから2日も経ってます!」
「え、そんなに?!うわー、先輩とかに怒られるじゃん…それじゃあボク達、もう帰っちゃうね」
「あ、もし今度ヒカミの学際都市にいらっしゃることがあったらぜひ会いに来てください。それじゃあすみませんが、失礼します」
「じゃあまたねーw」
ノゾムとユウキの兄弟は、そそくさとパーティーのもとから去っていった。
「…ホントはあの二人にもついてきて欲しかったっスねー…」
ぽつりと零すトモユキ。
「んー、まぁあの二人は一般人やし、知識はともかく戦闘とかにはあんま向いてへんしなー…一緒におったら楽しそうやけど」
「ま、いつかまた会いに行ったらいいさ。さ、俺らも俺らで出発しようぜ」


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