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Keys Quest

第16話
「あ、ちょっとそこのお二人さん」
「え?」
森の道を少し早歩きしていたノゾムとユウキは、女の声を聞いて立ち止まる。
「ボク達に用事?」
「うん、ちょっと聞きたいことあるんやけど」
「聞きたいこと、ですか…?」
怪訝そうな表情のノゾムとユウキ。
「そう。あなた達、背ぇ高い騎士とか気の弱そうな魔導士が居るパーティーに会わんかった?」
「え、それって、あの人たちのことですか…?」
「だよね、たぶん」
顔を見合わせる二人に、話し掛けてきた女の後ろに居たもう一人の女が問う。
「それって、どこで会ったの?」
「えっと…この先にある遺跡でだけど…お姉さんたち、あの人たちの知り合いか何か?」
「うん、まあ、知り合いっていうか何ていうか…ま、ありがとうねw」
女は微笑むと、ノゾム達の来た道に向かっていった。
「え、ちょっと…今の人たち、何だったんでしょう…?もしかして、あの人たちに何かするつもりだったんじゃ…」
ノゾムに耳打ちするユウキ。
「んー…ボクには悪い人には見えなかったケド…」
ノゾムは、心配そうな表情で二人の女の背中を見送った。

チトセ山にだいぶ近づいた小さな町で、パーティーは宿に泊まっていました。
トモユキとトキヤは、宿屋の娘のルリとその弟のコハクと話をしていました。

「それじゃあこのあたりも、時々魔族の襲来に遭ったりしてるんっスね」
「うん、そうなんだ。宿の裏に畑とかあるんだけど、そこもだいぶ荒らされて…」
「本当に、許せないですよ…」
「まあまあ、子供がそんな表情すんなって。俺たちがちゃんと倒してきてやるからさ」
と、その時、トモユキはふと窓の外を見た。
「…え?」
「ん?どうしたさ?」
「いや、今…2階の部屋から何かコウモリみたいなものが飛んでいったような気がしたんっスけど…」
「え?どの部屋ですか?」
「えっと、あそこの角の…」
「あそこは確か…一人だけの女の子の部屋のはずだよ?」
「ミホの部屋さ?とりあえず、行ってみっか」

4人はミホの部屋の前までやって来た。
「ミホちゃーん、入ってもいいっスかー?」
「え、ちょっと、待って…」
部屋の中からはどたばたとした音がする。
「まさか、本当になにかあったんじゃ…入っちゃうっスよ」
「えっ、だ、だから待てって…」
ミホの慌てふためいた声をよそに、トモユキはドアを開けた。
「…え」
トモユキは、目の前の女の姿に眼を奪われた。
上半身裸で、服で胸を押さえているだけのミホは、顔を赤らめ黒いショートヘアを乱しながら大急ぎでドアを閉めた。
「だっ、だから待てって言ったのに…っ!!」
「ご、ごめんなさいっス…」
もっと顔を真っ赤にしたトモユキが小さな声を発する。後ろではトキヤたちが笑いを堪えている。
「あ、ち、ちなみにミホちゃん、今コウモリか何かが部屋から出て行かなかったっスか…?」
「そんなの知らないよ!とりあえず着替え終わるまでドア開けんな!」
ミホの乱暴な声に、トモユキはがっくりと肩を落とすのであった。

そんなこんなで、パーティーはチトセ山にたどり着きました。
ふもとから頂上までは、これまでより更に強いモンスターが現れてきましたが、
バランスの取れたチームワークと、トモユキのレベルの上昇によって、次第にペースを上げてきました。
そうしてパーティーは、遂に魔王の待つ頂上までたどり着くのでした。

「お前が、魔王か?」
レツマは、頂上で大きな椅子に腰掛けていた男に問う。
「いかにも…オイラが魔王のミロクだ」
「ツ、ツカサ様は、どこに居るんっスか?!それに、ミホちゃんのお兄さんも…」
トモユキの言葉に、ミロクはゆっくりと口を開く。
「…残念だけど、もうお前らの目の前に居るぜ?」
「え…?」
その時、ミホがゆっくりと歩みだす。そして、澄んだ声で言う。
「…一つ、勘違いしていることがあるんです」
「え、ミ、ミホちゃん…?」
「私、”兄はチトセ山に居る”としか言いませんでしたよね?連れ去られた、なんて一言も言わなかったんです」
「そ、それじゃ、まさか…」
”ミホ”は一瞬にして、茶色のショートヘアから黒髪に変化し、服装もダークなものになった。
「私の本名はトシミ・ミロク。魔王ミロクの妹です」

「魔王の妹ってことは…それじゃあ…」
「ええ…居もしない女盗賊になりきって皆さんの旅に加わってからの様子は、全部兄に逐一連絡していました。トモユキさん、私の部屋からコウモリが飛んでいくのを見たんですよね?あれは、私たちの伝達手段になっていたコウモリだったんです」
先程までの男のような喋り方の”ミホ”とは打って変わって、トシミは丁寧な語り口で述べる。
「で、でも、なんでわざわざそんなことを…?」
トモユキは、トシミの様子に圧倒されながら言う。
「そうですね…皆さんの様子を知っておいたほうが兄も戦いやすいでしょうし、それに…」
トシミはおもむろに右手を挙げる。するとその指先から、電気のようなものがほとばしるのが見えた。そしてそれは、目にもとまらぬ速さでレツマとタカムラに襲い掛かる。
「なっ…?!」
「このほうが、皆さんに絶望を味わわせられるでしょう?」
「えっ、だ、大丈夫っスか?!レツマ様、タカムラ様!」
2人のほうへ駆け寄ろうとするトモユキ。
「来たらあかん!君まで動けんようになってまうで!」
「え、動けなくって…?」
「お二人には、私の術でちょっと動けなくなってもらったんです。パーティーの中でも、特にお強いお二人ですから」
淡々と言うトシミ。
「そ、そんな…ど、どうしましょうトキヤさん!」
「…そうさねー、んじゃ、俺に任しとき」
「え?」
トキヤは余裕そうな表情で、ギターに手をかけた。
「な、何をする気なんですか…?」
少し冷や汗を垂れるトシミ。
「何って、こいつは弾くためのもんに決まってるさ」
そう言うと、トキヤはギターを爪弾きはじめた。


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