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Keys Quest

第17話
心地よささえ感じられるトキヤの演奏。トモユキも思わず聞き惚れそうになる。
「そんな演奏が一体どうなるって…お、おい、トシミ?」
ミロクは、トシミがその場に崩れ落ちるのを見て驚く。
「え…何か、体から、力が…」
「ど、どうなってるんっスか…?まさかトキヤさん、魔族を弱らせられるとか…?!」
「うんにゃ、俺にはそんな芸当できねーさ」
トキヤは演奏の手を止めて言う。
「俺はただ、魔石の力を解放させる歌を奏でただけさ」
「ま、魔石…?」
怪訝そうなトモユキ。その後ろで、トシミが苦しそうにつぶやく。
「ま、まさか…この指輪が…?」
「そういうこっちゃ」
声のしたほうを向くと、レツマとタカムラが平気そうに立っていた。
「え、レツマ様、タカムラ様…術で動けなかったんじゃ…?」
「見ての通り、彼女の魔力が衰えてもうたからな」
「あ、そ、そっか…って、その魔石って、どういうことなんっスか?!」
「あいつがつけてる指輪、あれについてる黒い石は、魔族の魔力を吸い取ってしまう力があるんだよ」
タカムラがそっけなく言う。
「え、でも、あの指輪って遺跡でたまたま見つけたものを彼女にあげたものだった筈じゃ…?」
「じゃあ、あなた方は…あの時点で私が魔族だって気付いてたってことですか…?」
起き上がれないでいるトシミに、レツマが微笑んで言う。
「ああ。厳密に言えば、あの時点ではとっくに感づいとったんや」

「と、とっくにって…いつの間にっスか?!」
驚いた顔で尋ねるトモユキ。
「せやなー…あのネコ耳の行商人に2度目に会うた時を思い出してみ」
「2度目ってことは…彼女をパーティーに加えて大通りに戻ったときっスよね?で、でも、あの時何か不自然なことは特になかったような気が…」
「ほな、あのネコぼーずの傍には誰がおった?」
「誰って、確か自警団の人が3人ほど…あっ!」
「そうや。その前に彼女は、”自警団に突き出すなり何なりしな”って言うてたやろ。ちゅうことは彼女は自警団に追われとる身っちゅうことや。せやのに彼女はあの時何の反応もせえへんかった。”気付かれへんように平静を装っとった”とも一瞬思たけど、それにしたってふつーに会話に加わっとったし、どっちか言うたら”ホンマは自警団に追われるような身やなかった”と考えるほうが自然や」
「ということは、奴は少なくとも盗賊ではない。それなのにわざわざオレ達の荷物を盗んで気をひき、仲間に加わって旅をした理由は、余り多くは考えられねえよ。例えば…魔族のスパイ、とかな」
「俺は正直気がつかなかったけどさ、お前があいつの部屋からコウモリが出てくるのを見たって言って部屋のドアを開けた時、あいつの髪の色が違ってたからあやしいと思ってさ。んでレツマ達に聞いたらやっぱそういう話だったってわけさ」
「ま、もちろん確証はあれへんかったけど、たまたまあの魔石をもろたから、試しにつけてもろたっちゅうわけや。あ、ちなみにその石は一旦発動するとしばらく外れへんし、失った魔力もしばらくは回復でけへんから、そのつもりでw」
レツマはトシミに満面の笑顔を向けた。

「ったく、しょうがねえなあ…」
魔王・ミロクは、ゆっくりと立ち上がる。
「んじゃ、そろそろオイラの出番ってこったな」

「とりあえず、これでも見てもらうかな」
ミロクはパチンと指を鳴らす。すると、彼の背後から大きな檻のようなものが現れた。
「ちょっとー!いいかげん出しなさいよー!!」
「って、ツカサ様っ?!」
トモユキは、檻の中に居た愛しの君・ツカサ姫の姿を見て目を丸くした。
「えっ、ト、トモユキ君?!」
「ツカサ様ー!今助けに行きますっスー!!」
思わずツカサのほうへ駆けていこうとするトモユキ。
「そうはさせねえよ」
ミロクはすっと手を挙げた。
「なっ…?!」
トモユキ達とミロクとの間に、数多の魔物が現れた。
「下がれ!トモユキ君!」
レツマはそう叫ぶと、剣を抜いて魔物を倒しに向かう。
タカムラとトキヤも援護に廻るが、次々に現れる魔物の群れには追いつけないで居る。
「ちっ…やっぱ格闘系が他におらんなると随分キツいな…」
さっきまで先陣を切って物理攻撃をしていたミホ(=トシミ)は地に伏せっている。
「せめて、誰か格闘キャラが居てくれたら…」

その時、一同の背後から声がした。
「格闘系のキャラがおったらええんやね?」
「…え?」

振り向くと、そこには2人の女性が立っていた。
「えっ…チヒロさん?!それと…隣の人は…?」
目をぱちくりさせているトモユキだが、その隣でレツマはもっと驚いていた。
「あ、姉貴…」
「えっ、お姉さん?!」
「ああ…あれは紛れもなく、レツマの姉のリカコだよ」
タカムラが言う。
「え、タカムラ様ご存知なんっスか?」
「知ってるも何も…3年前の竜退治の時、オレ達とパーティーを組んでたんだからな」
「え、それじゃあ…」
次の瞬間、リカコは魔物の群れに走りこんだ。そして、物凄い勢いで魔物を薙ぎ倒していく。
「ひゅー、お姉さんすげえさねー。レツマが格闘家にこだわってた理由が分かるさ」
「あ、阿呆っ、そんなんちゃうわっ//」
顔を赤くするレツマ。
「こらレツマ!バカ言うてへんで、さっさと先行かんかい!」
蹴り技を惜しげもなく繰り広げながらリカコが怒鳴る。
「あ、お、おう…ほな行くで、トモユキ君!」
「あ…はいっス!」
レツマとトモユキは、魔物の群れを潜り抜けていった。
「あれ…今の魔導士の子、どっかで見たことあるような気ぃするけど…気のせいか」
リカコは一人ごちながら、並み居る敵を倒し続けていた。

「ふん、2人来たか」
ミロクは吐き捨てるように言う。
「さあ、お姫様を放してもらおか?」
「ツカサ様を、どうするつもりっスか?!」
「どうって、そりゃ…」
ごくりと唾を飲み込むツカサ。
「オイラのお嫁さんになってもらうに決まってんだろw」
「…はあ?!」
一同は思わず、呆れと若干の怒りを含んだ声を上げた。
「…そんな、そんなことのために姫様を…?」
うつむいているトモユキの声は震えていた。
「ああ、オイラ年上が好みだし。なんてったってお姫様だしなー」
「…さない」
トモユキの口から言葉が零れ落ちた。
「と、トモユキ君…?」
「絶対に、許さないっスー!!」
キッと顔を上げたトモユキは、怒りに溢れた表情でミロクに走っていく。
「え、おい、トモユ…」
レツマの制止も甲斐なく、トモユキはミロクの一撃にあっさりやられてしまう。
「まったく、そんな感情に任せた攻撃でオイラに勝てるわけねえじゃん」
「う…」
「ほな、感情任せの俺やったらどうなんや?」
レツマはミロクに剣を振るう。しかし、魔術を駆使したミロクの防御になかなか攻撃が決まらない。むしろ、レツマのほうが疲弊していく。

――どうして、僕は弱いんだろう。
僕にもっと力があれば、ツカサ様を守れたのに。
僕にもっと力があれば、レツマ様をサポートできたのに。
僕に、もっと、力が…――

次の瞬間、一面を眩しい光が包んだ。
「う、うわああああぁぁぁぁぁっっっ!!」
視界を奪われた一同は、ミロクの叫びだけを聞いたのだった。


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