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Keys Quest

第3話
「行きたいところ、っスか?」
城の周りに広がる街並みを歩くトモユキとレツマ。
「ああ。幾らなんでも二人で行くんは無謀やろ。せやから、かつて一緒に旅した仲間を一人加えよ思てな」
「えっ?それって3年前に竜を退治した時のパーティーってことっスかっ?!」
「ああ、賢者のタカムラって奴なんやけど…」
その瞬間、トモユキの瞳の色が変わった。
「ええっ?!タカムラってまさか、あ、あの大賢者との誉れ高いショウイチロウ・タカムラ様っスかっ?!」
「え、あ、ああ…そうやけど…」
一気に興奮し始めるトモユキに、レツマはたじろぐ。
「わーっ、僕、憧れなんっスよー!王家の血を引くとも噂されてて、3年前には竜騎士様を見事にサポートしたという伝説が語り継がれていて…うわー、タカムラ様にお会いできるなんて、信じられないっスーっ!!」
「あ、あのな…トモユキ君…?盛り上がっとるところ悪いんやけど…」
「え、何っスか?」
「タカムラ君は君が思っとる程ステキな奴やないで?いや、勿論賢者としての実力は俺も十分認めてんねけど…なんつーか、その…性格が…」
「…え?」
「…まあええわ。とりあえず会ってみたら分かる思うし。ほな行こか」
すたすたと歩き始めるレツマ。トモユキも慌てて後を追う。
「え、ちょ、どういうことっスか、竜騎士様?」
「あ、えっと、その”竜騎士様”っちゅう呼び方、小恥ずかしいからやめてもらえへんかな…?ほら、年齢も君とそない変わらんし」
「え、でも…どう呼んだら…?」
「いや、ふつーに名前でかまんて…」
「えっと…あれ?お名前…何でしたっけ;;」
レツマはその場にしゃがみこんだ。

何とか気を取り直したレツマとトモユキは、街外れの小さな森の中を進む。
「ほら、見えてきたで。あれが、タカムラ君の家や」
「え…?あれが…?」
生い茂る木々の中から現れたのは、こじんまりとした小さな二階建ての、家と言えば家に見える程度のものだった。
「あれ、えっと…もっと大きくて綺麗な豪邸にお住まいなのかと思ってたんっスけど…」
「ま、徐々に化けの皮が剥がれてくるけどな」
レツマはそう言うと、家の入り口まで歩み寄る。
「おーい、タカムラ君、いてるかー?」
しかし応答は無い。
「…お留守っスかね…?」
「いや…」
レツマは物怖じすることなく、扉を開けて入っていった。
「えっ、か、勝手に入っちゃって良いんっスかっ?!」

家の中は、本やら何かの道具やらが乱雑に散らばっていて、トモユキは足の踏み場を一生懸命探しながら歩いていた。
「レツマ様ー、ほ、ホントにこんな汚いところにあのタカムラ様がいらっしゃるんっスかー…?」
やっと名前で呼ばれるようになったレツマは、足許など気にせずずんずん進んでゆく。
そして、二人は2階の或る一室に入っていく。
そこは、他の部屋よりも更に散らかっていて、その端にぼろぼろになったソファーがある。
そのソファーの上に、本にうずまるようにして横たわる男の姿があった。顔の上に開かれた本で顔は見えない。
「え、えっとー…まさかこの人が…?」
戸惑うトモユキをよそに、レツマはその男に近寄り、身体を揺する。
「おーい、タカムラ君、どーせ起きてんねやろ?いい加減観念して起きんかーい」
男は、気だるそうに顔の上の本を取ると、ゆっくりと上体を起こした。
その髪の毛はぼさぼさ、服はよれよれ、いかにも不健康そうな雰囲気を漂わせていた。
「…たく、勝手に他人ん家上がってんじゃねえよ…」
「だったら外から呼んだ時すぐ応答せえや。俺らが来ることくらい分かってたくせに」
「あ、あのー、レツマ様ー…」
トモユキは恐る恐る声をかける。
「ああ…これが、君が散々会いたがってた大賢者、ショウイチロウ・タカムラや」
次の瞬間、トモユキの頭に稲妻が落ちた。しばらく頭が真っ白になり動けなくなる。
「…悪かったな、こんなんで」
タカムラは、頭を掻きながら不満そうに言う。
「す、すみませんっス…てっきり、もっと容姿端麗で爽やかな好青年なのかと…」
「あははは、そんなふうに見えてたんやw」
大爆笑のレツマだったが、何とか笑いを堪えて言う。
「…で?俺らが此処に来た理由もどうせ分かってんねやろ?」
「ああ、まあな…」
あくびをしつつ言うタカムラ。
「じゃあ、一緒に行ってくれるんっスかっ?」
「嫌だ」
「…え」
あまりのタカムラの即答に、トモユキはリアクションを取り損ねてしまう。
「な、なんでっスかっ?!」
「だって、面倒くせえし」
「め、面倒くさいって…」
「別に俺には関係ねえし…俺は眠いんだよ」
「そ、そんなあ…っ」
すっかりがっかりしてしまうトモユキ。
「まあまあ、俺はどうせこないな展開になるとは思てたし」
レツマが言う。
「それでも、やっぱお前の力が必要やねん。せやから、どないしたら俺らについてってくれる?」
タカムラは少し考える素振りを見せると、再び口を開いた。
「しょうがねえなあ…じゃあ、一つゲームをしようぜ」
「ゲーム…?」
「ああ、お前らがそれに勝ったら、ついて行ってやるよ」


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