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ほしのうた

そのまま進む第2幕

美寛はゆっくりと口に出して、自分の思考をトレースする。
「そう、これは『親の隣は人。では中と小の間は何?』っていう謎々よ。そして、これは指を表しているの。つまり、親指の隣は人差し指。だからもちろん、中指と小指の間は、薬指だよね?…そう、答えは薬。それで、ポイントはここからなんだ。薬を英語にするとmedicineだけど、もう一つ薬って言う英語がある。そう、それはdrag…ドラッグストアのドラッグだよ。そして、目の前にあるのはパソコン…そう、パソコンでドラッグを実行すればいいのよ」
美寛は中と小の間…つまり、「旅客機が」から「反対に」の約1ページ分を解答欄までドラッグする。そう、ドラッグ&ドロップという行為だ。すると、その瞬間、美寛の後方で音がした。
「えっ!?…あっ、ドアが開いた!!!」
美寛はドアの方へと駆け出し、3階へと下りていった。

疾風は部屋の片隅にあった、ある物へと近寄る。それは水槽だった。疾風はそのふたを開け、中の小石を乱雑にかき混ぜてみる。すると、すぐに手ごたえを意識した。
「…あった」
疾風の手に握られているのは、まぎれもなくエレベーターのカードキーである。疾風はそれをじっと見る。
「to B 2 …なるほど、地下2階までしか行けないって事だな。仕方ない、1階ずつ攻略しよう」
疾風は手に持っていた手紙を、床に投げ捨てた。そしてエレベーターに乗って地下2階へと上昇する。ちなみに彼が今捨てた手紙には、こう書かれていた。
「母と子は母音と子音。それを分けて後ろから読むだけ。
うらあ 戯画 きな 地租 西 →uraagigakinatisonisi→isinositanikagigaaru→いしのしたにかぎがある→石の下に鍵がある」

美寛が3階に降りてくると、そこは4階とほとんど変わらないスペースだった。また、がらんとした空間。そして、美寛の正面に見える扉は一瞬デジャヴュを想起させる。そして、中央にあったのはまたしても机と椅子。しかし、こちらにはパソコンが置かれていない。今度は紙と鉛筆だ。そのため、デジャヴュは想起させない。
「次は何?」
美寛は机の上に置かれている紙に目をやった。美寛の想像よりは大きな紙で、A4サイズ。そこにはこんなものが書かれていた。

「下のアルファベットだけからでは建たないものがある。それは何か、1〜7の数字で答えよ。解答は扉の横にあるキーで行う事。チャンスは2度だ。

ABC EHI AKL BEC IMN TSR CXW GH談 CS裏 RO学 RU画 P良Q
P蛮R A毛Q D化R W書V H国R 頭DE 放FG 対KX 夏MO 博UV 丸YZ 大JT
J曜石 L容詞 Y順応 B二月 体重N 絵日Z」

「な…?何、これ?」
ただの漢字とアルファベットの羅列にしか、最初美寛には見えなかった。しかし、じっと眺めているうちにその意図が分かってくる。
「そうか…つまり、アルファベットと別の漢字が対応しているのね」
ちなみに、巷ではこれを「漢字ナンクロ」とか「漢字抜け熟語」とかいうが、普通は美寛たちの世代の人間で、これらの名称になじみがある人間は少ない。美寛は悪戦苦闘しながらも、1つずつ言葉を埋めていく。
「よし、できた!!…でも、この中から何をすればいいんだろう?」
そこで美寛の思考は一度止まる。
「えっと…あれ?『建たないもの』なの?っていう事は、建造物?しかも1〜7の数字で答えられる?待って…今までのところ7種類以上あって、しかもそのどれもが漢字で表記できる建造物…もしかして、それって…!!そうか、分かった!!!」
美寛は扉の前まで駆け出して行った。

チン、と音がして扉が開く。疾風は地下2階に足を踏み入れた。今度は照明こそさっきより明るいものの、一転して何も無い。ただ、先ほどと同じ柱が貫いているだけである。疾風は中央の柱に向かおうとした。しかし、途中で足が止まる。
「…え?何だ、ここ?壁が…」
疾風は一度足を止めて、辺りを見回す。壁という壁に、何かが施されているのだ。ある場所には絵が直に書かれている。ある場所にはアイドルや演歌歌手のポスターが貼られている。またある場所には大学内で配られそうな勧誘のビラが貼られており、また別の場所にはピザ屋の宅配メニューが書かれたチラシが貼られていた。
「訳が分からないな…いいや、しばらく無視しよう。きっと…さっきと同じ場所にメモがあるだろ」
疾風は柱の反対側に回る。案の定、そこに一枚の紙が貼り付けられていた。紙にはこうあった。

「ここはダーマ神殿の地下闘技場。そしてお前は低級なバーサーカー。さぁ、目の前の敵を倒せ!
まずは北の村を破壊した植物 次に大団円を迎えた後に現れる土偶 そして光るコケを食べる魔族」

「え?何だそれ?」
疾風は思わずそう口に出し、首をひねった。しかし、彼の思考はすぐに冷静さを取り戻す。
「ダーマ神殿の地下に闘技場があるってことは…ああ、きっとあのゲームの事か。それで…『北の村を破壊した植物』はそこから考えれば…ヘルバオムだろうな。大団円…つまりエンディング後じゃないと戦えない土偶系の魔物と言えば…何だっけ…そう、キラープラスターだ。そして最後の敵は、光ゴケを食べる敵だから…ガマデウスだな。…それで?これがどうしたって?」
疾風はしばらく考え込む。
「まだ使われていない文章は二つ…『そしてお前は低級なバーサーカー。さぁ、目の前の敵を倒せ!』か。…ん?低級な、バーサーカー?そいつが、敵を倒す…?」
疾風は急に顔を上げた。
「なるほど、そういう事か!!」

さて…この章の謎は、若干の「特別な」知識を要する。しかし、それさえ明かしてしまえば実に単純な謎とも言えるだろう。以下に「特別な知識」を示す。そこから、考えたい方はどうぞ考えてみて欲しい。しかし、前章ほどの張りは無いものと思う。できるなら、以下のヒントを読まずに考えて欲しいものだが、それを要求するのはいささか無謀というものだろう。
・綾辻行人の「館シリーズ」という一連の傑作本格推理小説シリーズをご存知だろうか?第1作から第7作まで、その舞台は順に十角館・水車館・迷路館・人形館・時計館・黒猫館・暗黒館である。
・バーサーカーの低級に位置する魔物は、名前を「首狩り族」という。


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