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ほしのうた

激しく変わる第4幕

「ホント、できたの!?見せて見せて!!」
美寛は疾風の手元を覗き込む。このようになっていた。

数独・解答

「それで…この中に、『円に関係するもの』があるっていうの?」
美寛は、じっと疾風が解いてくれた問題を見つめる。その美寛の方を、疾風が軽く叩く。
「…美寛、手伝ってよ。扉を開けるんだろ?」
その言葉に、美寛は驚いて振り向いた。
「えっ!?疾風、分かったの?」
「ああ。数字嫌いの美寛には厳しい問題だよ、それ」
「ねえ、教えて!一体何の事、これ?」
美寛は、もう既に扉の近くまで行っている疾風のところに急いで走っていく。
「真ん中の…上から5行目の横列を見て、何か思い当たらない?」
「…え?314859267…が、どうかした?」
「314から始まる、円に関係するものは?」
「えっ?……あ、分かった!円周率だ!!」
「そういう事さ。円周率は3.141592653589793…って続いていくんだけど、真ん中の列は小数点第8桁までの円周率によく似ている。違う数字は2つだけだ。つまり…4番目の1が8に、9番目の5が7になっている」
疾風はそこで、扉の左側のロックに手をかけた。美寛はあわてて、扉の右側のロックに近づく。
「要は円周率に近づければいい。だから…左側は8を1に変え…」
「右側は7を5に変えればいいのね」
美寛と疾風はボタンを押す。疾風は81と、そして美寛は75と。
「…あっ、疾風!!扉が動き出した!!!」

二人は扉から外に出た。しばらく見ることのできなかった青い空が続いている。周りはどうにも広漠とした雰囲気の場所だ。木々が遠くの方で茂ってこそいるが、道路は見えない。大げさに言えば砂漠だが、実際に目にするものから一番近い印象の場所を挙げるとすれば、工事現場だろう。
「はぁ…やっと外だね…疲れちゃったな…」
美寛がそういったとき、あたりでかすかな変化が起こる。
「ん…?ね、疾風…今の…地震?」
そう言われて、疾風は急に目を見開いた。
「…忘れてた!美寛、あのビルには…」
そこで急に、美寛も事の重大さに気がつく。
「…あっ!!爆弾!!!」
「きっと地下から爆発してるんだ…!美寛、走るよ!!」
二人は手をつないで走り出す。しばらく全力で走った頃に、急に音が大きくなった。
「美寛、こっち!!」
疾風は右手に見えた、少し大きな茶色い岩の奥へと走りこむ。美寛がそこへ逃げ込んだ瞬間、疾風は美寛を抱きしめた。そして、突風。
「うわっ!!」
「美寛、がんばって!!」
美寛は必死で疾風にしがみつく。今は疾風がこんなにも近いことを、感じることができなかった。それぐらい、必死だった。きっと疾風も、同じぐらい必死だっただろう。美寛を守るために…。
風が止んだ。辺りを何もなかったかのような静寂が包む。二人はゆっくりと、自分たちが走ってきた方角に目を向ける。そこには…もう何もない。自分たちがどんなところに閉じ込められていたのかを、二人は永久に知ることができなくなってしまったらしい。美寛はぽつんとつぶやく。
「…なんか、ウソみたい。私たちが、生きていること…」
「ウソじゃないよ。…何なら、確認する?」
その言葉の直後に、疾風の顔が、美寛の顔に近づく。そして再び、静寂が訪れる。しかしそれは、二人が生きていることを確認するための静寂なのだ。
そして物語は一度、終わりを迎える。
しかしそれは、新たな物語の始まりなのだ。


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